ナイフショップつぼい 金属よもやま話 コーナー

金属は身の回りに沢山在りますね そんな中から 興味の有る物を探して掲載します
  やはり 最初は鉄です!
岡山の製鉄所「JFE」です 「J」はJAPAN 「F」は鉄のFe 「E」はエンジニアリング
    そして[Japan Future Enterprise]となっています

JFE

世界トップクラスの製鉄所「JFE」 当地岡山に在ります
左から1号炉-2号炉-3号炉 この右に4号炉
世界に冠たる日本の高炉です
福山と合わせて合計9基。高炉は世界に約800基
日本では30基 その内の9基です
世界的にも生産量/質/規模比べるものは在りません
高炉にもよりますが1日約10000トンの生産量です。なにしろ高さは50m以上です

高炉

 3号高炉です。
反対側のベルトコンベアで鉄鉱石とコークスを投入し銑鉄が出銑されます。標準的な炉内下部は1500度
左の円柱形で3本在るのが熱風炉です
(合計4本在ります)約1200度の温度で送風します
上部のパイプは環境用の排煙装置です
この排煙を利用して熱風炉から送風します
鉄は人間には必要不可欠ですが人間の環境も大事です
「JFE」では環境を第一に考えて操業しています


高炉は「生き物」と言われます こんな巨大な見るからに「マシン」ですが 「消化不良」「下痢」をおこします
鉄鉱石/コークスの量 炉内の温度 送風量など 様々な要因が有るからです
昔には 職人の勘を頼りでしたが 今では炉内に1000を越すセンサーが付いています
それでさえ 工場の方々の「勘」も必要です この勘で世界一の鉄...「鋼」があるんですね

暑いです

高炉から転炉に向かう途中です
汽車で運びます。画像では二両連結ですが
三両の時も在ります
勿論 無人の車両です
人間が乗れるような温度では有りません
この後 転炉で酸素を吹き込み精錬します
そして様々な工程を経てH型鋼/鉄板等に
変っていきます

煙が出てます

高炉より出てきた銑鉄に酸素や石灰を加えて
硫黄/リンなどの不純物を除去します
溶銑予備処理です
これで15mは楽に離れていましたが すごく暑いです
溶けた鉄ですからね


写真でご紹介してきた「鋼」ですが まず最初の二種類に別けてみましょう
鋼には、[リムド鋼] [キルド鋼] とがあります
精練された溶鋼に 脱酸剤をいれて 製鋼するのですが,この工程で 2種類に分かれるのです
脱酸剤にフェロマンガンFeMn などの脱酸力の弱いものを使うと溶鋼のなかの
炭素「C」も強い脱酸力をもっていますので 酸素「0」と結合して炭酸ガスとなり 炭酸飲料のように泡が出ます
これらが鋳型に流しこまれると 対流現象を起こしながら鋳型の周辺から凝固します
最初に固まるのは溶融点の高い物 つまり不純物の少ないものになります
不純物は対流で中心部へ運ばれて行き 逃げきれない泡も内部にとじこめられます
こうして周辺部(ふち)だけに純度も高く,気泡もない部分が出来るリムド=rimed(ふちのついた)鋼になります
リムド鋼は脱酸と同時に脱炭もしますから 炭素「C」の多い鋼は出来ません
円部のガス穴(気泡)は 次の圧延工程でつぶしてしまうので実用上は問題ありません
リムド鋼は歩留まりが良いので安く出来ます 普通鋼といわれるものは全てリムド鋼です
S S材はリムド鋼です 
次に脱酸剤にフェロシリコンFeSiという 強い脱酸剤を使うと ガス抜きが完全に行なわれ
炭酸飲料の気の抜けたように.... 死んだように静かなように.... キルド=killed(殺された)鋼になります
キルド鋼は鋳型のなかでも リムド鋼のように動かないで外周から固まっていきます
そのために鋳物の引け巣と同じような大きな空洞部が上部に出来ます
この部分は切り捨てますから 歩留まりが悪く どうしても高くなりますが質は内外とも健全です
特殊鋼はキルド鋼からつくります
キルド鋼/リムド鋼と 「鉄」も「鋼」と姿を変えて沢山の種類になります
簡単な表示方法で並べてみました
鋼材の種類を左のように漢字で書くと 間違いも発生しますし 「面倒くさい」です
そこで 右のように簡単にアルファベットで表示します

  【 鋼 】
一般構造用圧延鋼材 −−−−−−− SS
ボイラ及び圧力容器用炭素鋼板 −−− SB
ボイラ及び圧力容器用モリブデン鋼板 − SB−M
溶接構造用圧延鋼材 −−−−−−− SM
溶接構造用耐侯性熱間圧延鋼材 −− SMA
磨き棒鋼(炭素鋼) −−−−−−−− SS−B−D
熱間圧延軟鋼板及び鋼帯 −−−−− SPHC,D,E,
冷間圧延鋼板及び鋼帯 −−−−−− SPCC,D,E,
一般構造用軽量形鋼 −−−−−−− SSC
一般構造用溶接軽量H形鋼 −−−−  SWH

  【 特殊用途鋼 】
ステンレス鋼 −−−−−−−−− SUS
耐熱鋼 −−−−−−−−−−−  SUH
炭素工具鋼鋼材 −−−−−−−  SK
高速度工具鋼鋼材 −−−−−−  SKH
合金工具鋼鋼材 −−−−−−−  SKC
ばね鋼鋼材 −−−−−−−−−  SUP
高炭素クロム軸受鋼鋼材  −−−  SUJ
耐食耐熱超合金 −−−−−−−  NCF

   

  【 鋼管 】
構造用合金鋼鋼管 −−−−−−−− STKS
一般構造用炭素鋼鋼管 −−−−−− STK
機械構造用炭素鋼鋼管 −−−−−− STKM
構造用ステンレス鋼鋼管 −−−−−− SUS−TK
一般構造用角形鋼管 −−−−−−− STKR

  【 構造用合金鋼 】
機械構造用炭素鋼鋼材 −−−−− S−C
ニッケルクロム鋼鋼材 −−−−−  SNC
ニッケルクロムモリブデン鋼網材 − SNCM
クロム鋼鋼材 −−−−−−−−− SCr
クロムモリブデン鋼鋼材 −−−−− SCM
機械構造用マンガン鋼鋼材 −−− SMn

 さて 上記の「鋼」の仲間達の話です

鉄はすべての機械/工具の基礎、基本です。
しかし鉄がそのままで(純粋な鉄、元素記号Feで表される物)機械/工具に使用されることはまず無いです
機械/工具に使用されるのは「鋼」です。
鋼の定義は はっきりとはありませんが、「鍛えた鉄」が「鋼」だと認識していただければ間違いないです。
そしてこの鋼を含むすべての鉄基の素材が、また「鉄」なのです。

それでは その「鋼」の種類を幾つかご紹介致します

 SC材=構造用炭素鋼

S−C材は その名のとおり炭素の含有量が指定されているだけの素材です。
炭素は鉄に対して大きな影響を持ち、炭素が多くなるほど強くなっていきます。これは全ての鋼に言えます
しかし伸びは減り、耐衝撃性は弱くなり、溶接性も低下してしまいます。
S−C材の名称は他の鋼材と異なり、SとCの間に数字が入り、含有する炭素の量を表しています
例えばS45Cであれば、0.45%の炭素を含んでいるという意味です。
S−C材の炭素量はS10Cの0.06%からS58Cの0.61%まで揃っており、それぞれの用途に使い分けられている。
一例を上げればモンキーレンチは、S55Cの鍛造で作られています。ドリルチャックはS35Cです。

含有される炭素は焼き入れ性を増すが、0.3%以下の炭素鋼では焼き入れは出来ません。
そしてその焼き入れ硬さが上がるのは0.6%くらいまでで、
それ以上炭素量が増えても強度は変化しないで耐摩耗性は優れてきます。
このことから炭素鋼は0,6%を炭素含有量の上限とし、
それ以上炭素が多いものについては合金工具鋼の分類に入れられます。
 【この合金工具鋼の中にSKD11(D2ですね)が含まれます】

焼き入れは、変態点と呼ばれる金属結晶組織が変化する温度を20〜30度C越えるまで加熱し、
所定時間保持した後に急冷します。急冷法は、水冷,油冷、空冷法があります。

 SK材=工具鋼

ここでは上記で登場した合金工具鋼です その名の通り工具用ですから多種で
切削工具鋼.耐衝撃工具鋼.冷間金型鋼.熱間金型工具鋼などがあります
合金工具鋼は炭素鋼に
クロム(Cr) タングステン(W) モリブデン(Mo)パナジウム(V) ニッケル(Ni) マンガン(Mn)などの元素を
添加したもので それぞれの作用は 
クロムは 焼き入れ硬化が深く入るようにする
タングステンは 高温時の硬度保持
モリブデンは 焼き入れ、焼きならし状態での強度を改善する
バナジウムは 耐磨耗性
ニッケルは粘り強さ、耐食性の向上
各々バランスを取って添加されます 基本的に熱処理性の向上が目的で 
熱処理硬度の向上/焼入れひずみの軽減/焼きならし状態での強度改善などです
その為に 熱処理性に優れています
S-C材とSK材は日常的にも身の回りに沢山あります 
タガネ.ポンチ.鋸刃.金型.など 硬い鉄は大抵これらです。
ハイスペックなバイク/自転車に使用される「クロモリ鋼」もそうです

 SUS材=ステンレス鋼

ステンレス鋼は基本的に鋼にクロムを添加することにより、耐食性を向上させた合金です。
ステンレスの名前の由来はステイン(汚れ/錆)、レス(無い)から来たものです
大きく分けて13クロムステンレス鋼、18クロムステンレス鋼、18−8ステンレス鋼に分けることが出来ます。
これを金属組織的に見ると、
13クロムがマルテンサイト系、18クロムがフェライト系、18−8はオーステナイト系で、
強度的にはマルテンサイト、フェライト、オーステナイトの順で強く、耐食性ではこの逆となります
一般的にキッチンシンクなどに使われる 皆様ご存知のSUS304は18−8オーステナイト系ステンレス鋼で、
組成はその名の通り、クロムが約18%、ニッケルが約8%添加された合金です
この合金の特徴は軟らかく、粘りがあり、鉄基でありながら非磁性で
耐食性はステンレス合金の中ではもっとも優れています 
機械加工性は、粘りがあり、加工硬化を起こしやすく 又 溶接性は優れています
 【SUS440Cは耐食性に優れた刃物として有名ですが マルテンサイト系の仲間です】

 SKH材=高速度工具鋼

一般的に切削用工具の使用されます その為 高温時に容易に軟化せず 硬度が在る事が条件です
又 磨耗に対して抵抗が大きく 強度/じん性が要求されます
高速度工具鋼が性能を十分に発揮するには なにより「熱処理」が非常に重要です
仮にSKH51(ハイス鋼ですね)では高温時の切削性を要求すれば じん性が低くなります
熱処理時の冷却方法も通常は油冷ですが 空冷が奨励されている場合もあり
熱処理/用途を間違えると 鋼としての役割を果たせません
しかし 硬度は63以上となり 鋼としては硬度の高い物です
最近 ナイフ業界で話題の「粉末ハイス鋼」のHAP(ハップ)シリーズも この仲間です 
従来に無い耐磨耗性/高じん性が在り HAP70では最高Hrc72まで硬度が上がります
只 この高じん性は あくまでも高速度工具鋼の話であり 
HAPはじん性においてハイス鋼並みであり ナイフ/包丁では刃こぼれ等の可能性は否定出来ません
主に高速度工具鋼の使用目的は 
切削用/パンチダイス/リーマ/ダイス/エンドミルなどで 材料/刃共 固定し使用します

 ここから本格的な「刃物鋼」ですね 
復習をしてみますと...刃物鋼はキルド鋼で 特殊鋼の中に含まれている と言う事ですね

刃物鋼

刃物鋼について 説明するに辺り 今までの中で「あれ?」と思われてる方もいるかもしれませんね
基本的には刃物鋼のカテゴリーが在るはずにも関わらず
合金工具鋼/ステンレス鋼などにも 刃物鋼が在る事です
すなわち【鋼】であれば 刃物になると言う事です
実際に安価なハサミなどではS-C材などが多用されていて
日常的にご家庭などでは何の問題も無く使われています
では刃物鋼のカテゴリーとは?
まず 刃物鋼は切断材料と使用条件によって初めて その可否が決められるのです
布をハサミで切る/肉を包丁で切る/鉄板を機械で切る/木を鉈で切る
これらの条件に適合する鋼のカテゴリーの中から刃物鋼選びます
鋼材はJISによって決められた工業製品ですので 
成分/熱処理方法などは定められています 目的別の選択肢が有る訳です

さて ここでナイフのお話です
ナイフは汎用性が高い刃物です 従って鋼種特性のバランスが重要です
まず簡単に
--- ナタのように叩きつける
--- カミソリのようにうぶ毛を剃る
--- 錆の発生
この三点の問題だけでも 非常に矛盾を発生させます 
じん性/硬度/防錆 あちらを立てればこちらがダメ!
このような条件の中で現在ATS−34が一つの基準的になっています
しかしこのATS−34も 元は154CMでベアリング鋼 合金鋼です
このように 刃物鋼の中で最高の物は存在しません
あくまでも 切断材料/使用条件(あるいは個人的趣味)によってのみ「最高」が有る訳です
またコスト面でもバランスは必要ですし 加工性もコストの一面です
そして鋼種のみならず 前述の熱処理が鋼種と同等に重要性が有ります
鋼はJIS鋼材ですので一定の熱処理が完全に行われないと本来の性能が発揮出来ません
水冷/油冷/サブゼロ処理/温度/戻し どれも重要です
鍛冶屋さんが何十年もかかって しかも何代目とかの歴史が在って可能であり
また 最新鋭の真空熱処理炉で様々なデータの元で熱処理が可能です
如何に良い鋼材であっても 熱処理いかんでは 生材以下です
 ではナイフ鋼材には何が良いか?
結論はありません! 前述のように条件が違えば全て違ってきます
お客様各々に必要な鋼材/熱処理/形状/使用方法などの組み合わせで探すしかありません
当社ではベストでは無く お客様各々のモアベターをごいっしょに探したいです

長い「よもやま話」でしたが如何でしたでしょうか....
結論は曖昧ですが 少しでもお役に立てたらと思います
             坪井

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